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動画で「雑」のアーカイバーになる

· ジェネレーター研究講座

2022年最初のジェネレーター研究講座は「動画」で「雑」を「記録」することが、ジェネレーター性をどう開くかということを追究しました。

ゲストは、企業・自治体のプロモーション動画の制作に携わる一方、スマホなどで撮影した動画をYou Tubeを用いて発信することで、すべての人が世の中を切り取り伝える力を持てることを目指す教育活動も行っている家子史穂さん。つい最近、『仕事に使える You Tube 動画術』という新著を出されたばかりです。

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家子さんは「インドア派」で、外をなかなか歩かないそうですが、その代わりに You Tube をよく見るそうです。ただそのとき視聴するのは、有名 You Tuber がいろいろ仕掛けて視聴者を面白がらせようとするものではなく V-log と呼ばれるジャンルのものだと言います。

V-logとは、ブログから派生した言葉。You Tube を用いて、「ブログ」で自分の思いをただ綴るように日常の何気ない風景をただ流すだけの動画のことです。この文章をお読みの方は、そんなの知ってるよとお思いかもしれませんが、私は初めてそんなジャンルがあることを知りました。

「V-log は、ただただ自分の日常の一場面を切り取っただけの動画です。通常の動画編集だったら間違いなくカットしてしまうどうでもいいような瞬間もそのまま動画として流すのです」

家子さんは、自身がよく見る、お気に入りの V-log を紹介してくださいましたが、その中のひとつは V-log でよく取り上げられる「モーニング・ルーティーン」と呼ばれる種類で、朝起きて、朝食を食べて、着替えて、家を出て、オフィスに向かうまでを延々流すというような動画でした。

朝食に何を食べたかを伝えるだけだったら、インスタグラムで写真を上げれば済む話です。しかし、どんなマグカップにしようか選ぼうとするカットで食器棚全体が写り、他にどんな食器があるのか見えたり、何を飲もうか選ぶときにも、その人が持っているコーヒーやら紅茶やらの銘柄がすべて写る。朝食だけを切り取って撮影しないので、ダイニングテーブルに載っているペンや雑誌とか、昨晩の食べ残しも写りこみます。

「誰かの生活をそのままのぞいている感覚になるんですよ」

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確かにいわゆる「You Tuber」の動画のように、なんとかして人々を驚かし、面白がらせ、話題を呼んで再生回数を増やそうという野心を感じません。そのため、とてもいい意味でのぐだぐだで無駄なカットだらけの映像が、その人の生活をさらけ出してしまうのです。かっこつけて見せたい生活よりも、その人の暮らしそのものを背中からのぞいている感覚に陥ると家子さんが言うのはよくわかりました。

 V-log の実例を紹介してもらいながら話をうかがううちに、なるほど、V-logは「雑」をアーカイブする手段になり得るかもしれないと思い始めました。V-log といわゆる You Tube の違いに気づいたのです。

 

人気 You Tuber の動画では、相手のペースにただ乗っかり、面白がらせてもらうものでしょう。視聴者自身が「しそうにもないきわどいこと(悪意あるいたずらも含む)」を代わりにやってもらい、それを見てドキドキする。地上波では言えない際どい暴露話を聞かせてもらう。そういうテーマに惹きつけられ、はまってしまうのがいわゆる You Tube です。また、俺を見てほしい、有名になる、という「自己顕示欲」にあふれています。

しかし、V-log は、つくり手が「モーニングルーティーン」というテーマで何かを見せたにしても、その動画のどこに食いつくかは視聴者によって皆違うのです。動画のつくり手は、もちろん自分を見てほしい気持ちがあるからつくるのでしょうが、動画制作者への関心以上に、写っている対象や日常の風景の方にフォーカスが行ってしまいます。

家を出て、乗り込んだエレベーターのドアの閉まり方だとか、フロアボタンとかの動画を見て、

「ああ、うちのと同じだ」

とか

「へえ、やっぱり外国のはボタンの配置が違うんだ」

とかたまたまうつりこんだ、ある種ノイズのような事物や出来事に目が行ってしまうのです。

家子さんが

「のぞく」

と言ったのは、動画作成者の「意図」を超えた部分まで見えてしまうという意味を含んでいたのです。

誰かの「主観」を「のぞく」ことで、あたかも自分がその人になりきって物事を見る感覚を味わえる。それが V-log の魅力なのではないかということが家子さんとの対談で浮かび上がってきました。

V-log の手法は、観察映画というジャンルに通じるものがあると家子さんは教えてくれました。観察映画の祖は、『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』『ボストン市庁舎』という作品で話題を呼んでいるフレデリック・ワイズマン監督です。

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ワイズマン監督の作品は、3時間を超える長編で、ナレーションや音楽は入らず、淡々と図書館や市庁舎の風景を見せるだけという特徴があります。あたかもその場にいるかのような臨場感を与え、そこで何が起こっているかを自らが感じとらないといけないのです。完全に見ている側にそこで起きている事実を放り投げます。だからこそ編集意図によって誘導されることなく、実態が露わになります。見ている側の根気とリテラシーが問われるわけですが、V-log に映し出された対象のどこに食いつくかが人それぞれでばらばらのように、ひたすら映し出される日常の風景を通して、

「そうかここがこの図書館の面白いところなのだ」

ということがだんだん見えてくるのです。

ジェネレーターは、あちこち歩きまわって、なんとなく気になる「雑」を集め、そこから浮かび上がるなにかをつかもうとします。その感覚は、観察映画や V-log の目指す方向性と重なります。もしかしたら「雑」をアーカイブするために動画を活用するために Vlog が活かせるのではないかという可能性を感じました。

早速、V-log Feel度Walk実験を始めてみよう!と盛り上がり、ただ教わって終わりではなく、新たなたくらみを生み出してしまうジェネらしさにあふれた面白いトークになりました。

ぜひとも動画アーカイブ全編をご覧になってみてください。 

 

※ 実際に動画をみたい方はぜひ We are Generators の仲間になろう!!

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